ペット可物件は家賃3万円アップ&16日早く成約する|データで見る空室対策の本命
「ペット可にすれば本当に儲かるのか」「設備投資なしで家賃を上げられるなんて、にわかには信じられない」——賃貸経営をしているオーナー様であれば、一度はそう感じたことがあるのではないでしょうか。
実は、この問いに対する答えは、すでに統計データの中に明確に示されています。ペット可物件は、ペット不可物件と比べて平均賃料が3万円以上高く、成約までの期間も2週間以上短いという調査結果が出ているのです。本記事では、この数字の根拠と背景、そして「なぜ供給が増えないのか」「導入する際にどんな注意が必要か」までを、賃貸経営の現場目線で整理していきます。
この記事でわかること
- ペット可物件とペット不可物件の賃料・成約スピードの実際の差
- なぜペット可物件の供給がいまだに少ないのか、その構造的な理由
- 賃料アップが「絵に描いた餅」にならないための条件
- ペット可化を検討する際にまず押さえておきたいリスクの全体像
データで見る「ペット可プレミアム」の実態
まず核心となる数字から見ていきましょう。不動産情報サイトLIFULL HOME’Sに掲載されている物件データを分析した調査によると、ペット可物件の掲載賃料平均は11万2,771円で、ペット不可物件の掲載賃料平均は7万8,253円。ペット可物件の方が3万4,518円も高いという結果が出ています。
驚くべきはこれだけではありません。賃料が高いにもかかわらず、掲載日数についてはペット可物件が平均66.8日、ペット不可物件は平均83.4日と、ペット可物件の方が16.6日早く埋まっているのです。「高いのに早く決まる」という、一般的な賃貸市場の常識からすると意外な現象が起きているわけです。
これは単発のキャンペーンや一時的なブームではありません。同様の傾向は複数の調査で繰り返し確認されています。空室対策コンサルティングを手がける企業の分析でも、ペット可物件の空室率は一般物件の半分以下という調査結果が出ており、ペットオーナーは長期入居の傾向が強く、安定した収益が見込めると報告されています。
つまり「賃料が高い」「早く決まる」「長く住んでもらえる」という3つのメリットが同時に成立する、賃貸経営においては非常に珍しい状況がペット可物件には存在しているということです。
なぜこの「逆転現象」が起きるのか
理由は単純で、需要に対して供給が圧倒的に少ないからです。一般社団法人ペットフード協会の調査が示すように、日本では犬・猫を合わせて1,500万頭以上が飼育されており、ペットとの暮らしを希望する世帯は決して少数派ではありません。それに対して、実際に貸し出されているペット可物件の数は、長年にわたって需要に追いついていない状態が続いています。
実際に、LIFULL HOME’Sに掲載されている物件のうち、ペット可物件の割合は2022年3月時点で12.9%だったものが、2025年3月時点では19.3%まで増加しています。4年間で6.4ポイント上昇したとはいえ、依然として全体の2割にも届いていません。市場の需要に対して、選択肢はまだ圧倒的に少ないのです。
この希少性ゆえに、ペットを飼っている入居希望者は「やっと見つけたペット可物件」に対して、駅からの距離や築年数といった他の条件には目をつぶり、入居を決断する傾向があります。空室対策のコンサルティングを行う企業のコラムでも、ペット可物件の入居希望者はペットと暮らすことが最優先事項のため、駅からの距離や築年数などの多少のデメリットは目をつぶってくれることが多いと指摘されています。築古物件やアクセスの悪い物件であっても、ペット可という条件一つで他物件との差別化が図れる——これが、大きな設備投資をせずに済む「最も手軽な空室対策」と呼ばれる理由です。
なぜオーナーはペット可に踏み出せないのか
ここまで読むと「すぐにでもペット可にすべきだ」と思われるかもしれません。しかし、現実にはペット可物件の供給がなかなか伸びない理由があります。それは、オーナー側に根強い不安があるからです。
不動産業界へのアンケート調査では、ペットを飼っている入居者とオーナーの両者が心配しているのが、退去するときの修繕費の問題で、過去には実際に訴訟に発展した例もあったことが報告されています。実際、退去時の原状回復費用については、ペットの臭いや壁・床の傷などにより、ペットを飼っていない物件に比べて1.5〜2倍かかると言われているのが実情です。さらに、国民生活センターに寄せられる賃貸住宅の敷金・原状回復トラブルのうち、最も多いのがペット飼育によるものであり、全体の24〜25%を占めているというデータもあります。
加えて、一度ペット可にした物件を後からペット不可に戻すのは簡単ではありません。アンケート等で反対している入居者がいる場合は退去のリスクがあり、一度ペット可にしてしまうと、ペット不可に戻すのは難しくなる点も、オーナーが慎重になる大きな要因です。建物内のペット飼育者全員に退去してもらい、汚損された箇所を清掃・修繕する必要があるためで、いわば「片道切符」の決断であることを理解しておく必要があります。
つまり、「賃料3万円アップ」という見出しだけを信じて安易に踏み出すのではなく、リスクと向き合った上で意思決定することが、結果的に成功への近道になるのです。
賃料アップを「絵に描いた餅」にしないための条件
ここで注意したいのは、「ペット可にすれば誰でも自動的に賃料が3万円上がる」というわけではない、という点です。先述の調査データは市場全体の平均値であり、個別の物件における賃料アップの幅は、立地や物件のグレード、ペット向け設備の有無によって変わってきます。
実際に賃貸経営者へのヒアリングを行った記事では、現役オーナー3名の声として次のような実情が紹介されています。あるオーナーは原状回復のリスクヘッジとして敷金を3か月分受け取り、賃料については1万円を上乗せしていると回答。別のオーナーは「ペット可物件はお客さまへのアピール力があるが、だからといって賃料を高くしても良いとは言い切れない」として、賃料ではなく敷金や共益費を高く設定して対応していると述べています。さらに別のオーナーは賃料を上げて募集をかけたところ、却って問い合わせが少なくなり、賃上げは都心では可能性があっても地方では難しい印象を受けたと振り返っています。
つまり、「賃料アップ」と「原状回復費用への備え」のバランスをどう取るかは、物件の立地特性や想定する入居者層によって最適解が異なります。一律に「賃料を3万円上げればよい」と捉えるのではなく、自分の物件の特性に合わせた設計が必要です。
賃料アップ以外に得られる「見えない利益」
ペット可化による恩恵は、賃料の上乗せだけにとどまりません。長期入居による空室リスクの低減という側面も非常に重要です。ペットと暮らす人にとって、ようやく見つけたペット可物件から転居することは、新たな物件探しの苦労を再び経験することを意味します。そのため、特別な事情がない限り、長く住み続ける傾向が強いとされています。
管理戸数を増やす不動産会社向けのコラムでも、ペットと暮らす入居者の平均居住期間は、ペットなしの入居者と比較して約1.5倍長いことが明らかになっていると報告されており、これは賃貸経営における収益の安定性に直結する要素です。退去時の原状回復費用やリーシング費用の負担を考えると、「高い賃料で短期間しか住んでもらえない」よりも「適正な賃料で長期間住んでもらえる」ことのほうが、トータルでの収益性を高めるケースは少なくありません。
また、競合物件との差別化という観点でも、ペット可は依然として強力な武器です。築年数が古く、最寄り駅からのアクセスもさほど良くない物件であっても、ペット可という条件一つで「狙って探しに来る入居者」を獲得できる可能性が高まります。これは、内装のリノベーションや大規模な設備投資をせずに実現できる、コストパフォーマンスの高い差別化戦略だといえるでしょう。
ペット可化を検討する際の最初の一歩
では、実際にペット可化を検討する場合、何から始めればよいのでしょうか。まず重要なのは、「ペット可」「ペット共生型」「ペット専用」という3つの段階のうち、自分の物件にとってどの方向性が適しているかを見極めることです。既存の物件に大規模な投資をせずに条件を緩和するだけの「ペット可」、設計段階からペットとの暮らしを前提にした「ペット共生型」、ペット愛好家に特化した「ペット専用」では、必要な投資額もターゲットとする入居者層も大きく異なります。
次に、原状回復費用への備えとして、敷金の増額や敷金償却の特約をどう設計するかを契約段階で明確にしておくことが欠かせません。先述したように、原状回復トラブルの多くは「契約内容が曖昧であったこと」に起因しています。契約時にルールを明文化し、入居者と認識を共有しておくことが、後々の収益を守る最も確実な手段です。
そして、既存の入居者がいる物件をペット可に切り替える場合は、現在住んでいる方々への配慮を怠らないことです。ペットが苦手な方やアレルギーをお持ちの方が、ペット可化によって不快な思いをし、退去につながってしまえば、得られるはずだったメリットを打ち消してしまいます。
まとめ:データは「機会」を示すが、「成功」を保証しない
ペット可物件が平均で賃料3万円以上高く、16日以上早く成約しているというデータは、賃貸市場における供給不足という構造的な事実を映し出しています。この「機会」自体は、今後も大きく変わることはないと考えられます。
しかし、このデータをそのまま自分の物件に当てはめて「賃料を3万円上げればいい」と短絡的に考えるのは早計です。原状回復費用への備え、近隣トラブルへの対応、既存入居者への配慮——これらをどう設計するかによって、ペット可化が「収益を生む資産」になるか、「トラブルの火種」になるかが分かれます。
賃貸経営において、ペット可化は決して魔法の杖ではありません。しかし、正しい知識と準備をもって取り組めば、空室対策と賃料アップ、そして長期安定経営を同時に実現できる、数少ない選択肢の一つであることは間違いないでしょう。
次回は、「ペット可物件特有の原状回復・敷金設計のコツ」について、国土交通省のガイドラインを踏まえながら詳しく解説していきます。
▼次回記事「ペット可物件の原状回復・敷金トラブルを防ぐには|国交省ガイドラインで読み解く正しい敷金設計のコツ」
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